一年ぶりの更新です。
普通、一年更新しなかったら、そのブログは閉鎖されたも同然かとは思いますが、まあ、気が向いたら書いていきたいよな、と思ったりもしているので、あえて閉鎖はせず細々続けていこうかと。一年おきの更新てのはあまりにひどいんですがね。
で、一年ぶりに再びブログを書こうと思い立ったきっかけは、やっぱりあれですね、イスタンブールはタキシムのゲジ公園抗議活動。
昨晩、遅まきながら行ってきました。既に治安当局の介入がなくなったタキシム・ゲジ公園は、まるでウッドストック状態。それぞれイデオロギーの差はあれど、「とりあえずアンチ・エルドアンね」っていうところで一致団結した若者たちです。
まずタキシムには皆メトロでアプローチするのですが、夜19時頃になると続々と抗議活動に参加しようと集まった若者たちがメトロにぎゅうぎゅうに乗って運ばれてきます。タキシム駅で電車を降りるや否や、拍手とシュプレヒコール。どこかの政党が組織だってやってる抗議活動ではないのに、こうやって自然発生的に集まってきた若者たちが一斉に行動するさまはちょっと見モノです。
↑もはや、地下鉄構内の時点でラッシュアワー
公園は、実際にテントを張ってゲジ公園を守ろうとするグループ、その人を応援しに来たグループ、そしてちょっと観光気分で来た若者、各政治団体、私服警官などなどでみっちみちです。
↑ホント、ウッドストック的。
中には「革命キオスク」的なものもあり、元気なおばちゃんが「みんながんばってよね」といいながら自家製ポアチャとかチャイを配っているシーンもありました。特に昨晩はイスラム的なKandilというお祭りだったので、恒例Kandilシミットがあちこちで配られていました。
↑これは、エルドアン首相が「所詮、略奪者(ならず者)たちが勝手にやってるだけのこと」と発言したことを受け、「略奪行為党」=ÇHPと書いて最大与党CHPをもじったもの。略奪どころか、シミットをタダで配ってますね。ちなみに今回CHPがホント、役立たずで残念。
とりあえず、既に祭りと化した抗議活動でしたが、とにかく若者のエネルギーが熱い! 政治に対する熱い想い、特に自分たちはアタトゥルクの子どもなのである、という誇り。そして成功できないかもしれない、という恐れにひるまず、元気に歌って踊って叫んで抗議する姿は圧巻です。これって、まず日本の若者には見られないエネルギーです。私はナショナリストではありませんが、彼らの、自分たちがアタトゥルクの子どもである、この国を作ってくれたアタトゥルクの意志を継いでいるのだ、という誇りにはちょっと感動しました。いつもは北朝鮮みたい、って思ってたんだけど。
↑バスは道を封鎖するためにこうやって置かれてます。やりたい放題。
↑こちらのバスには「図書館」って書いてあります。ホントに、中で新聞とか本読んでる若者多し。
↑アノニマスさんたちも参戦したらしく、現場ではアノニマス面がたくさん売っていました。
↑『おれたち若いからさ、タイイップ。大目に見てくれよ……略奪者同盟・アタシェヒル』
今回は、こういうエスプリの効いたスローガンが多くて、読みながら散歩するだけでもかなり楽しかった。
↑海外メディアもたくさん来てました。ちなみに「イスタンブール五輪招致」とのつながりをやたらと気にするのは日本メディアだけです。
↑最終的には、踊っちゃいますよ。だってトルコ人だから。
すごい数の人たちが集まってますが、実は皆、それぞれ全く別のイデオロギーを持っている人たちです。例えばクルド人独立を目指す方々、共産党、労働者党といった左翼の方々、トルコ航空や劣悪な労働条件を抗議している労働組合の方々、アンチ・キャピタリズム系ムスリマンの方々、女性への暴力を止めようと頑張っている方々、フェミニスト、などなど。本来ならそれぞれが全く相入れず、いさかいがあるようなグループたちが、「反エルドアン」ということで一致団結しているのが面白いです。
そして皆割と行儀のいい若者たちです。AKPが与党に来る以前の抗議活動と言えば、最後に必ず略奪があって暴動が起きて終わり、という感じでしたが、今回はちゃんとごみも集める掃除もする、すごい人ごみだけど痴漢もいないし(年末年始のタキシム祭りはひどいらしいです)、落とした携帯電話はちゃんと戻ってくる、的ないいとこのおぼっちゃんやおじょうさんの集まり、ってのが特徴です。ま、こうしたちょっと育ちのいい知識層っていうのは、AKP以前なら与党勢力だったのに、AKP以降は野党勢力に転じてしまい、ここ10年AKP政権の中で肩身の狭い思いをしてきた方だから、AKP政権下における反政府勢力、というのは結局この育ちのいい人たちになる、という構図なんですね。
↑朝になると、こうやって皆で掃除してるのです。
この熱い思いが、今後どういう展開を見せるのかっていうところはまだ分かりませんが、エルドアン首相はシリア政府のアサドに対して「自国民に暴力を行使するなど」とかいって非難しているワケですから、ここで自分が自国民に暴力を行使するワケにはいかないですよね。といっても、デモ当初はある程度の暴力は既に行使されてしまいましたが(催涙ガスと放水)、実弾による殺戮などは一応まだです。それでも、そもそもこのデモ始まりの頃に治安当局が行った厳しい取り締まりがきっかけで騒ぎが大きくなった、というのもあるので下手に動けないと思います。
いつも強気のエルドアン首相、選挙をすれば勝てるという計算からか(確かに野党は全然ダメだし)、いまだに強気です。「いいたいことがあるなら選挙で意志を示せ」とか「おれを支持するもう50%の層を、なんとか抑えてやっているんだ」(→脅迫!?)とさらに怒りを煽る発言ばかり。こうして「反AKP」というよりは「アンチ・エルドアン」層というのがどんどん膨らみ、一致団結してデモが大きくなってゆく、という構図が未だに見えていない模様です。これを受けて、最近仲が悪いと噂のギュル大統領は「国民は選挙以外の方法でも意志表示する権利がある。今は双方が冷静になるべき時だ」などと、割とモノ分かりの良い発言です。
今回のエルドアンの最大の失態は「CHPの仕業だ」とか「テロ組織が裏で糸を操っている」などなど陰謀説に終始しているばかりで、現実が見えていないところだと個人的には思っています。こういうトンチンカンな発言をすることで、これまでの政治家としての業績が汚れてしまうとは思わないんでしょうかね。周囲の報道官など適切なアドバイスはできないもの? だんだん彼は「ダメな独裁者」的な様相を帯び始めていて残念な限り。イデオロギーや政治内容はちっとも合いませんが、彼が貧しいところから出発して苦労を知っている政治家であり、政治の才能はある、という部分では私は評価しているのですが。10年以上単独政権のトップに座り続けていると、初心を忘れて周囲が見えない裸の王様になってしまうという、いい例かもしれません。
衝突の爪あとはかなり生々しく残ってます。
今回すごいなと思ったは、民衆がメディアに勝利したことです。
トルコにおける、NTVをはじめとする生真面目なニュース専門番組は、いつも公正で冷静な報道を行っているように見せかけ、実は政府よりだったことが今回の抗議デモで明らかになり(というか前からそうなんだけど、今回はあまりにあからさま過ぎた)、多くの人はHalk TVというマイナーな独立左派系テレビ局に流れて行きました。そして中継に来た大手メディアの中継車もデモ隊にぼこぼこにされ、「政府の犬め」的な落書きをされてしまったようで、NTVを抱えるドーウシュグループのオーナーは番組に出演して事実上謝罪と見られる発言をしています。といっても、ジャーナリストたちも反政府的な記事をチロっと書いただけで解雇されたり刑務所行きになったりしているから、可哀そうと言えば可哀そうなのですが。
ちなみにエルドアン首相がモロッコに行く前に行った記者会見で、ロイターの記者だけが果敢に首相に抗議活動の真髄をつく質問をして怒らせていました。この質疑応答シーンでさえ、他のメディアは最初怖がって放映していなかったほどです。ロイターは海外メディアだからできたことなのかもしれないけれど、今後彼女のアクレディが発行されるかどうかは疑問。
おもしろかったのはCNN Turk。デモが熱く繰り広げられる中、皇帝ペンギンのドキュメンタリーを延々と流していたことに抗議して、ある舞台俳優さんが生放送の討論会の中でにわか上着を脱ぎ、ペンギンTシャツを披露。なかなかキュートなエスプリということで、話題になっていました。それを自虐的にニュースにするCNN TurkもCNN Turkなんですが。
まあ、とりあえず個人的には若者の熱さに感動した今回の抗議デモ。昨日の雰囲気では、一ヶ月ぐらいは居座りが続きそうな雰囲気です。今後、エルドアン首相がどうでるかによって先行きがきまるかもしれませんが、今のところ、タキシムそのものは平和で楽しそうでしたよ。嗚呼、こんな若者の情熱が日本にもあったらなぁ。